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【連載】中世の村「田染荘小崎」を歩く 第2回 荘園を守った中世の裁判と「台薗集落」

ページID:0002162 更新日:2022年10月25日更新 印刷ページ表示

中世の村「田染荘小崎」を歩く について

 このページでは、重要文化的景観「田染荘小崎の農村景観」追加選定を記念して、その構成要素・関連文化財について、連載で紹介し、その魅力を発信していきます。
 少しでも田染荘小崎に興味が湧いた方は、実際に現地を歩いてみてください。中世を流れた風の香りをきっと感じることができるはずです。

「台薗集落」には中世の地名がいっぱい

 第1回で紹介した夕日岩屋からやや右手に見える集落を「台薗(だいそん)集落」といいます。台薗集落の中には、田染荘の荘官屋敷である「尾崎屋敷(現延寿寺)」があったことで知られ、他にも多くの場所が中世の地名とリンクしています。
「台薗集落」には中世の地名がいっぱいの画像1

 現在、その地名が残された場所に石碑を建てています。台薗地区の中では鎌倉時代の屋敷地「かとのいやしき(屋号:カドヤシキ)」「為延屋敷(屋号:タネノブ)」「飯塚屋敷(小地名:イイズカ)」の他、「おさきのミたうその(小地名:ミドオ)」「おさきのミすミはたけ(屋号:ミスミ)」に石碑があります。
 これらの場所は「鎌倉時代の地名」と「現在の屋号・小地名」が一致しており、加えて屋敷地に造られるような石造文化財(屋敷荒神など)などの存在により、中世から屋敷地であったことが分かっています。細かな検討を加えると、台薗地区では10ヶ所の地名が中世に遡ると考えられており、中世から地割・村の様子がメートル単位でほとんど変わらずに伝わっていることが分かるのです。
「台薗集落」には中世の地名がいっぱいの画像2
 では、何故「鎌倉時代の地名」が分かっているのでしょうか?それには鎌倉時代の田染荘を守るために立ち上がった一人の荘官のストーリーがありました。

田染荘を守った裁判と妙覚の思い

 鎌倉時代になると、大友氏の家臣をはじめとする武士が各地を支配するようになり、宇佐神宮や神宮寺・弥勒寺と関係の深い国東半島の荘園と対立を深めていきました。田染荘も大友氏の家臣である小田原氏・狭間氏らによって少しずつ支配されるようになり、荘官屋敷付近も武士によって占領される事態になっていました。
 そのような厳しい状況に置かれていた田染荘を救ったのが「神領興行法(しんりょうこうぎょうほう)」でした。

文化財ワンポイント:神領興行法とは?

 鎌倉時代に日本を震撼させた元寇の際に、祈祷などで活躍した神社などに、武士に占領されていた領土を返還するように定めた法のことです。宇佐神宮をはじめとする八幡神社では、盛んに「敵国降伏(こうぶく)」の祈祷が行われ、それによってモンゴル軍が撃退されたのだと信じられていました。
異国降伏祈祷で活躍した宇佐神宮(左)、長安寺を中心に六郷満山も祈祷で活躍(右)の画像
異国降伏祈祷で活躍した宇佐神宮(左)、長安寺を中心に六郷満山も祈祷で活躍(右)

 しかし、この神領興行法に力の強い武士達は納得しません。時の荘官、妙覚(宇佐定基)は、居座る武士達を相手に裁判を起こします。「理(ことわり)」を重んじる鎌倉武士に裁判で勝利すれば、彼らも土地を手放すだろうと考えたのです。妙覚は宇佐神宮の力を借りながら鎮西探題へ訴え出ます。
 数年にわたる裁判の後、出された裁定はこうでした。「田染荘の恒任名(つねとうみょう・妙覚らの屋敷があった地区)は、妙覚が祖父の代から守り継いできた土地である。力で脅して土地を奪うのをやめ、荘園に土地を返しなさい。」妙覚らの努力は実り、田染荘は裁判に勝利したのでした。その後も幾つかの領土が田染荘に返還され、田染荘小崎は荘官屋敷として復活するのです。
 裁判が終わった頃、妙覚はすでに高齢だったと考えられており、「田畠等配分状」を出して、子供達に取り返した土地を分けていきます。その田畠等配分状には多くの地名が書き記されており、田染荘小崎に残る「鎌倉時代の地名」のほとんどもそれに裏付けられています。また、田畠等配分状の最後の段には妙覚の強い思いを感じる文言が残されています。

「すゑがすゑまでも、一味同心の思ひをなして、知行すへき也(先の先までも、皆が協力する思いをもって、(荘園の土地を)守るのだ)。」

 この思いを記した古文書が、現代にまで残り、田染荘小崎の事を多く教えてくれたのです。
 妙覚が残した地名の石碑を巡ることで、鎌倉時代の荘園の人々の思いに触れてみませんか?石碑の位置はパンフレット重要文化的景観 田染荘小崎の農村景観​[PDFファイル/3.61MB]​で確認できますよ。
文化財ワンポイント:神領興行法とは?の画像
次回は「水の流れを追って・・・『イゼ』と『田越し』と『湧き水』と」を掲載します。

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