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豊後高田市黒土にある無動寺のご本尊として所在する【木造不動明王坐像】は、経年劣化によって左手の持物である《羂索(けんさく)》が朽ちて、その先端にあるべき鐶(かん)と分銅が失われていました。また、右手の持物である《三鈷剣(さんこけん)》の柄頭(つかがしら)も長らく失われたままとなっていました。
この度、宗教法人無動寺が事業主体となり、大分県・豊後高田市の補助による「木造不動明王坐像保存修理事業」として、失われた不動明王の持物を新補する修理が行われました。
11月26日~27日には、修理を担当する公益財団法人美術院の片山さんが現地を訪れ、工房で作成した羂索・三鈷剣の柄頭を仏像本体に取り付ける作業が行われました。
三鈷剣は柄頭の先端を手の中におさまるように削って調整し、竹釘によって剣本体と固定させました。羂索は紐と鐶・分銅を縫い付けて固定した後で、慎重に左手の中に通していきました。
また、新補した部分については「古色仕上げ」を行って、仏像の他の部分と色が馴染むようにしました。
取付作業に立ち会った無動寺の青山裕信住職は、「ずっと気になっていた羂索と剣(の柄頭)が無事に出来上がった。これで本尊の不動明王(の姿)が揃ったので良かった。」と話してくれました。
【修理前】右手に持つ三鈷剣の柄頭、 【修理後】失われた部分が復元され、
左手に持つ羂索が朽ちています。 三鈷剣と羂索が本来の形に戻りました。
今回の修理で新補された 羂索の先に鐶と分銅を縫い付けています 修理の作業工程についての
三鈷剣の柄頭と羂索 説明・協議を行っています
仏像は手に様々なモノを持っています。これらを「持物(じもつ)」といって、それぞれに意味があります。
上記の【不動明王】の持物である羂索は煩悩や魔物を縛り上げる武器としての面もある一方で、苦しみから救い上げるための慈悲の綱ともされています。もう一方の三鈷剣についても、煩悩や苦しみを切り裂く武器であると共に、「知恵の象徴」とも言われています。
この他にも、どんなケガや病気にも効く薬壺を手に持つ【薬師如来】であったり、なんでも願いをかなえてくれる「功徳水」が入った水瓶を持つ【観音菩薩】であったり…。
持物の特徴や意味を理解すると、仏像見学がより楽しくなります。