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ロマンチックな文化財「連碑(れんぴ)」~とある戦国の夫婦愛~

ページID:0002086 更新日:2022年10月25日更新 印刷ページ表示

 板碑(いたび)と呼ばれる石造文化財が、2つ以上(ほとんどの場合は2つ)がつながっているものを指します。板碑は単なる墓ではなく、生前供養(逆修)のために作られる場合も多く、市内の石造文化財でもメジャーなものです。連碑としては、庵ノ迫板碑(あんのさこ・いたび)が県指定有形文化財である他、市内の各遺跡でもよく見かけられます。

県指定文化財・塔ノ御堂板碑(通常の板碑)(左)、県指定文化財・庵ノ迫板碑(連碑)(右)の画像
県指定文化財・塔ノ御堂板碑(通常の板碑)(左)、県指定文化財・庵ノ迫板碑(連碑)(右)

どこがロマンチックなのですか・・・?

 そんな疑問を持った方が大半だと思いますが、連碑は夫婦の供養塔であることが多いのです(親子のものや、一人で沢山つくる場合もありますが、基本は夫婦のものです)。中世の墓は1人1基。時間が経てばバラバラになってしまう可能性もあります。死後、何年経っても離れたくない――。そんな思いが夫婦の連碑には刻まれているのです。
 だんだん連碑がロマンチックに見えてきませんか?

市内の連碑の例(2人分の結願をした別の石造物も含みます)の画像
市内の連碑の例(2人分の結願をした別の石造物も含みます)

天念寺の磨崖連碑に刻まれた夫婦愛を読み解く!

 普通、連碑に眠る人々のことは多くは分かりません。しかし、天念寺の磨崖連碑に関しては、少しだけイメージを膨らませることができます。磨崖連碑というのは、磨崖仏のように、崖面を加工して彫った連碑のことで、国東半島の場合は四角い形をしています。
 天念寺の講堂より、数十メートルほど西側に下ると、3つの磨崖連碑が見えてきます。ここは西之坊と呼ばれた天念寺の坊跡とされています。この中で向かって左側の碑に着目してみましょう。

西ノ坊磨崖連碑(左)、浄音・恵芳 磨崖連碑(右)の画像
西ノ坊磨崖連碑(左)、浄音・恵芳 磨崖連碑(右)

(墨書銘)
「恵芳尊女神儀
永禄五年八月二日敬白
浄音居士神儀」

 ここに登場する「浄音」「恵芳」は夫婦であると考えられます。実はこの浄音という人物は、市指定文化財「天念寺大般若経」の奥書に登場する人物なのです。その情報を整理すると、ロマンチックな物語が見えてきます(全て大般若経奥書と古文書・古記録類に基づいたストーリーです)。

 永禄5年(1562年)、現・戴星学園の近くの海神社のすぐそばに森木屋敷という屋敷があり、森木安芸守浄音という僧侶が住んでいました。浄音は既に65歳。戦国時代では高齢であり、妻の恵芳はこの世を去ってしまいます。浄音は死後の世界でもきっと妻・恵芳と巡り遭うことができるよう、西ノ坊の岩面に磨崖連碑を刻みます。
 それから2年後の永禄7年(1564年)、浄音に最後の大仕事が舞い込んできます。天念寺大般若経の書写事業です。都甲地区を治めていた屋山城主・吉弘鎮信(統幸の父)は、六郷満山の寺院を厚く保護する政策をしており、古く断片的になった天念寺大般若経を新しく書写しなおすことになったのです。その中心を担ったのが、当時67歳であった浄音。天念寺で長く仏事を行い、知識が豊富な彼が適任であると認められてのことだったと考えられます。
 大般若経は全部で600巻もあるとてつもなく長い経典で、その全ての内容を転読することは「真読(しんどく)」と呼ばれ、ご利益も並大抵ではありませんでした。浄音は大般若経を復活させるべく、日々研究を続け、次々に書写した経典を寺院に納めていきます。残された数百巻の経典のほとんどには「施主 浄音」と、書写した浄音の名前が残され、彼の努力が並大抵のものではなかった事が分かります。そしてついに600巻を書写し終え、浄音は見事に大役を果たしたのでした。
 実はこの時の大般若経の内、2巻分にだけ、妻・恵芳の名前が見えるのです。そこには「為未来志恵芳尼」とあり、浄音から恵芳への「未来の志」として、経典が納められたということを示します。浄音は妻と死別した後も、決してうつむかず、妻・恵芳との来世への思いを、大般若経の再興事業に託していたのです。

長岩屋山天念寺(左)、天念寺大般若経(右)​の画像
長岩屋山天念寺                   天念寺大般若経

長岩屋住僧置文案(森ノ木屋敷)(左)、森木屋敷比定地の近くにある海神社(右)の画像
   長岩屋住僧置文案(森ノ木屋敷)          森木屋敷比定地の近くにある海神社

以上、戦国時代に天念寺付近に住んでいた夫婦の愛情を復元してみました。
バレンタインに市内の連碑探し、仏の里・豊後高田市の新定番かもしれませんよ・・・!


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